岐阜県の陸上自衛隊・日野基本射撃場で、自動小銃を発射し自衛隊員3人を死傷させた自衛官候補生の男(18歳)に関し、週刊新潮が男の実名を報道した(6月29日号)。

自衛官候補生の男は18歳だが、改正少年法では「特定少年」に分類される。少年法では、原則として少年の名前などは報道できない。しかし特定少年に限っては、家裁での審判で「刑事処分が相当である」と判断され逆送された後、起訴されると実名報道が可能となる。

自衛官候補生の男は、逆送され起訴されることになると思うので、その段階で実名報道が可能となる。週刊新潮の場合、それに先だっての実名報道となる。厳密には少年法違反になる(罰則なし)。

新潮や他の週刊誌(写真週刊誌含む)は、過去からも(少年法が改正される以前)犯罪を犯した少年の実名報道を行ったケースがある。それぞれに報道意義があると判断してのものだ。一部には「雑誌を売るための商業主義」と批判する人たちもいる。まあ、判断は人それぞれだろうが。

この改正少年法での実名報道事案の最初の事件は、2021年10月に発生した「甲府放火殺人事件」である。当時19歳の特定少年が、好意を寄せていた女性の両親を殺害し、家に放火したものである。男は逆送された後、起訴されている(現在裁判中)。

この甲府市の事件では、各紙の対応が分かれる結果となった。

朝日新聞 紙面:実名、ネット版:実名
読売新聞 紙面:実名、ネット版:実名
産経新聞 紙面:実名、ネット版:実名
毎日新聞 紙面:実名、ネット版:匿名
日経新聞 紙面:実名、ネット版:匿名
東京新聞 紙面:匿名、ネット版:匿名

共同通信 新聞用配信:実名、ネット版用:匿名
時事通信 新聞用配信:実名、ネット版用:実名

NHK ニュース放送:実名、ネット版:実名
日テレ ニュース放送:実名、ネット版:実名
テレ朝 ニュース放送:実名、ネット版:実名
TBS ニュース放送:実名、ネット版:実名
フジTV ニュース放送:実名、ネット版:実名

どう報道するかは各紙(各社)の判断なので、特に言うことはない。ただ当時、ネットも実名を報道した朝日・読売・産経、時事通信、及びTV各局で、現在も事件内容と実名が確認できるのは産経のみである。

読売は記事が「読者会員」限定に変更されている。朝日に至っては、事件内容の記事すら確認できなくなっている。ところが朝日は「犯罪被害者支援条例 山梨県、年内成立目指す」という記事(山梨県が犯罪被害者やその家族を支援する条例の成立を目指しているという内容)中に、甲府市の放火殺人事件の概略と被告少年の実名が記載されている。ははは、朝日の消し忘れのようだ。

甲府市の事件以降も「大阪・寝屋川市 男性刺殺事件」(容疑者4人中2人が特定少年)でも逆送後、起訴されている。当時(2022年4月)各メディアがどのような報道をしていたが定かではないが、現在ネット版で容疑者氏名などが確認できるのは、やはり産経のみである。

今回の自衛官候補生が起訴された場合、各紙・各局がどう報じるだろうか? ネットでの実名報道は大幅に後退するのではないかと思う。各紙・各社とも「デジタルタトゥー」問題(インターネット上の情報を完全に除去するのは不可能。半永久的にデジタルで報じた記事が残る恐れがある)を気にしているからだ(表向きは)。

でも各紙が作成している新聞紙面の縮小版(図書館などで閲覧可能)からだって、将来的に見ることができるだろう。国民の知る権利と自らの都合と、その軽重をどう考えているのか? 日ごろから「国民の知る権利がぁ~!」と言っている連中に限って、自らに不都合なことは報じない「報道しない自由」を謳歌しているのが実情。

だからメディアの言うことは胡散臭いのだ。