10月3日のテレ朝「グッド! モーニング」で、最近話題の新マナーとして「渋沢栄一は不貞を連想させるため、結婚式のご祝儀には福沢諭吉の旧札を使う」というのが紹介された。
渋沢栄一は女性好きで有名で、正式に結婚した妻は2人だが他にもお妾さんがいて、婚外子も含めると子どもは少なくとも17人はいたという話がある。そうしたことから、渋沢栄一の新一万円札は結婚式のご祝儀にはそぐわないというもの。
テレ朝は渋沢の出身地・深谷市の小島進市長にまでインタビューして、「非常に残念だなという思いがある。私も栄一さんが女性を好きだというのは否定しません。これ、つらいんですよ。それが独り歩きするのがね」とのコメントを放送した。
これらを見ると、テレ朝は「渋沢栄一の新一万円札がご祝儀に適さない」との新マナーが存在する前提で放送している。もちろん「旧札(福沢諭吉)を使った方が無難です」などと、新マナーを推奨しているわけではない。
しかしテレ朝はこの元となったSNSの投稿が「ネタ投稿」だったことを知らないのだろうか? まあ、知らないのだろう。この「新マナー」と称するものが、どういう経緯で言われ始め、どう拡がったのかなどまったく調査(裏取り)すらしていないことになる。調べればすぐに分かるのに。
元ネタ(あえてネタと書くが)は、7月にあるユーザーが新札発行時の起こり得る話として「新札の渋沢栄一は女遊びが激しく不貞を連想させるため、結婚後も愛人を持たなかった福沢諭吉の旧札を使うのがマナーですとか、言いそうなマナー講師が出てきそう」と投稿したもの。ろくでもないマナーを生み出してきた「自称・マナー講師」連中を揶揄した投稿だ。
この投稿には7万件もの「いいね」がつくほど反響があり、「有り得そう」「(そんなことをいうマナー講師が)実際に出てきそう」「そんなマナー講師が出てくる前にここで止めよう」などと盛り上がっていた。これが拡散される中で、いつの間にか「新マナー」と誤解する人も出てきてしまったらしい。
こういう経緯があるのを調べもせず、「最近話題の新マナー」などと情報番組で紹介し、深谷市長の貴重な時間を無駄にさせたテレ朝。公共の電波を使って「ネタを事実」として拡散した責任は大きい。
テレ朝の番組を見たからかは不明だが、銀行に押しかけて「福沢諭吉の一万円札のピン札と両替して」と要求する利用者も出てきている。無いと言われても「じゃあ、全支店に確認して探して」などと無茶を言う人もいるようだ。既に一部で実害が出始めている。
それなのにテレ朝は未だに「テレ朝ニュース」内に「新1万円札は祝儀に不適切? 渋沢栄一は『不貞を連想させる』 『新マナー』にまで」と、ネタを投下したままだ。
テレ朝の記事には7,000件を超えるコメントが寄せられているが「ネタ」だと指摘するのはごく少数で、
「新1万円札が渋沢栄一だから祝儀には不適切という新マナーが登場したとは驚き」
「諭吉さんが入手できなくなった時、どうすればいいのか」
「気になるのなら五千円札で渡すとかでも良いのでは」
など、事実と受け止めた人のコメントが圧倒的に多い。どうするんだよ、テレ朝。
日ごろは「ネットはウソばかり」「信頼できる情報は新聞とTV」などと言っているオールドメディア。それがネットの「ネタ」を調べもせずに「事実」として放送している。こんな恥ずかしいことはないぞ。
古くて申し訳ないが、ドリフのコントに「もしもこんな〇〇があったら」がある。〇〇には「寿司や」「居酒屋」「銭湯」などが入り、お客さん役の長さんに対しドリフメンバーが非常識な店主となり面白おかしく演じるものだ。
今回のテレ朝の放送は、まさにこれである。ありもしない「寿司や」「居酒屋」「銭湯」を取り上げ、「こんな〇〇が実際にあるんですよ」と取り上げたってこと。そう考えたら、いかにテレ朝の放送が恥ずかしいものか分かるということ。
テレ朝がネタを誤って放送してしまったと謝罪する日は来るのだろうか? とぼけ通すのだろうな。まあ、だいたい想像できるけどね。これが「自称・信頼できるメディア」の実態だ。
「ダメだ、こりゃ!」(© いかりや長介)